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リリース前カウントダウン企画(2017/10/21)

リリース前カウントダウン企画 6日前!

 

こんばんは!オジプロ運営です!本日のカウントダウン企画はこちら!リリースまであと6日前はこの方、錦織司シナリオを担当して下さった「ザク山田ドム子さん」です!

 

 

 

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ジャネーの法則。フランスの哲学者、ポール・ジャネが発案し、彼の甥である心理学者ピエール・ジャネの著書によって紹介された法則である。

主観的に記憶される年月の長さは、子供にはより長く大人にはより短く評価されるという現象──つまりは大人がよく言う「歳とると一年があっという間で怖い」を心理学的に説明したものだ。

これは過去を振り返った時に感じる時間の長さの印象を指している。
まだまだ歩き始めたばかりの赤子と五十年間歩き続けてきた大人、振り返ってみればその距離の差は歴然だ。

一年ごとに刻まれていく目印は、長い道すがらで見返してみても短くあっけないものにしか思えないだろうから。

「残酷だ」

時間は人に対して優しくない。
そのジャネーの法則によると、体感的には二十歳を迎えた時点で人生の半分を終えてしまっているらしい。

では。今窓の外で友人と楽しく談笑している未来ある女子高生は、既に四割がた消費してしまっている訳だ。
そしてあと数年で人生の折り返し地点を迎える自分は……そこまで考えて、錦織は思考するのを止める。
何故なら、ぼんやりと観察をしていた女子高生たちが、自分を訝しげに見ている事に気づいたから。

「あー……っと誤解だ。そうじゃないんだ少女達」

「私の喫茶店で覗きとは、あまり関心出来ない趣味ですね」

「ちょ!? いや、違いますよ!」

背後から投げかけられた言葉に錦織は慌てて振り返る。整理中である古書を片手に立つこの喫茶店“セレーノ”の主、円は困った様に笑った。

「考え事なら、外よりもティーカップを眺めながらの方が良いかもしれませんよ」

空になったティーカップ。自分はこの一杯でどのくらいの時間を潰してしまったのだろうか、慌てて時計を確認すれば既に二時間は経過していた。

「何か悩みでもおありですか」

珍しく長居をした錦織を不思議に思ったのだろう。円は心配そうに尋ねる。

「……いえ、時間の潰し方が分からなくて。すみません紅茶一杯でこんな時間まで」

「お気になさらず、ここでの楽しみ方は人それぞれです。それに結構いらっしゃいますから、一杯の紅茶とこの店の空気を楽しんでくださるお客様も」

穏やかな店の雰囲気に合う優しい店主。暖かさと柔らかい音楽は、今の錦織にとっては“逆効果”だった。
どことなく居心地の悪くなった店内から逃げるように素早く支払いを済ませ外へ出ていく。空は快晴、秋の訪れとは対照的に錦織の心には雲がかかっていた。



『すみません司先生!突然頼まれちゃって!』

そうやって“彼女”に謝られたのは今から二時間半前のことである。

錦織は定期的に“彼女”の家に家庭教師として赴いており、予定では今日の午前中から勉強を教えるはずだった。予定変更の理由は学校行事の手伝い、何でも担当の子が熱を出して倒れてしまったらしく、代打として色々と動くことになったと。

謝る理由なんてない。勉強も大事だが、同じくらい青春を楽しむのも大事なのだ。

『そりゃ仕方ねぇな、頑張ってやってこい。でも張り切り過ぎてお前まで倒れんなよ』

大丈夫ですよ、と明るく笑う顔は今でも鮮明に思い出せる。こちらまで釣られて笑顔になってしまうそれに、元気を貰う友人はきっと多いだろう。

……そこで錦織は気づく。今日一日、暇になってしまった。

「折角休みをとった訳だし仕事はしたくない。かといって慣れない事をすると、どこか違和感を覚える」

パチリ。静かな空間に音が響く。

結局、錦織は喫茶セレーノから真っすぐ自宅へと戻った。そして自身の趣味であり、ライフワークでもあるパズル作成に手をつけた。

パズルは良い。完成という終わりがあるし、達成感もある。何より余計な事を考えなくてもいい。ただ一つ、いや二つ難点をあげるとすれば、四十過ぎの独り身の男がやる趣味としてはあまりにも“暗く”そして“地味”だということか。

「変わり映えの無い毎日に新しい風を。なーんて、柄じゃ無かったってことか」

“彼女”のおすすめで喫茶店でブレイクタイムとやらを行ってみたものの、ゆっくりと流れる時間に飲み込まれそうになった。実に素晴らしい趣味だと思うのだが、どうやら自身の気質とは合わないらしい。

そんなにせっかちとかじゃないはずだけどな。と、錦織は自分を見直す。

「趣味コレだし。紅茶だって嫌いじゃない、物語の本も最近読みだした。アイツから勧められて……アイツが最近の趣味だと言ってたから」

パチリ。ピースとピースが繋がり、額縁の中の絵が再構成されていく。

何気なしに買ったこのパズルはどうやら有名な画家の油絵のようで、テーブルを挟んで向かい合い楽しそうに談笑する男女の絵は、芸術に疎い錦織でも見覚えのあるものだった。穏やかな木漏れ日の中、この二人の間には幸せな時間が流れていることだろう。

「縁が無いものを選んじまったかな」

錦織はパズルを作り上げながらそう一人呟く。
いつもはこんな雑念など入り込む暇など無く黙々と行うことが出来るのに、どうして今日に限って余計な考えが出てくるのか。そう、いつもの休日と違うところと言えば、“彼女”との予定が無くなってしまったという──。

「いやいや、だから何だっていうんだ」

錦織は頭を振った。小休憩を挟むため席から立ちあがり、以前喫茶店で購入した紅茶を準備する。
店主の円曰く、精神を安定させる効果があり、香りも甘く女性に人気なんだとか。

曰く、“彼女”も好んで飲んでいるんだとか。

「……コーヒーにしよう」

紅茶の封を開けそうになった手を止め、いつものコーヒーメーカーに手を伸ばす。

「あと六日か」

キッチンに掲げてあるカレンダー。次に彼女に勉強を教える日は、今日から数えて六日後。その日しかお互いの休みが合わなかったのだ。

「長いな」

思わず出た言葉に、錦織は慌てて口を押さえる。誰に聞かれている訳でもないのに。

「あーもう……これはあくまで、予定が狂ったから」

錦織は自分自身にそう言い聞かせる。

「別に落ち込んでなんていないし、残念でもない」

無意味に過ごす休日ほど嫌なものはない。何故ならその分、自分の時間はあっという間に過ぎていってしまうのだから。

「平常心平常心」

時間の経過が早く感じる理由として、単調な毎日による慣れと飽きが原因と言われている。だから自分は有意義に、結果を残す時間を送りたいのだ。新鮮味のある、意味のある時間を。

「……あと六日」

濃く深い香りのするコーヒーを口にする錦織は思考する。そして自分に一つ嘘をつく。

「いつもの日常がくるまで、あと六日」

今日無くなってしまった約束は、“ただの”有意義な時間の一つなのだと。

 

 

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なんとカウントダウンSSを書いていただきました!
リリースまであと6日です!お楽しみに!